果たされない約束

直澄君

2014年12月28日 21:48

卑怯者。嘘つき。裏切り者。乱暴者のいい加減者。臆病者。




 罵倒の言葉は、考えれば考えるほど沸いてくる。


 でも一番最後に伝えたかった言葉は……。


 一番返さなければなかった言葉は……もう、渡せない。




 黒い棺の中。

 色とりどりの花に囲まれた青白い顔に、見慣れていた笑みが浮かぶ事はもう無い。

 けれど目を閉じたその顔は、どこか満足そうに笑んでいるようにも見えた。

 頬を伝う感触に、唇が震える。

 何も持っていない手を、横たわる相手の頬にそっと添えた。

 手袋越しに伝わる、熱の失われた感覚。

 もう二度と、何も返すことも、返されることも無い。

 視界が歪む。

 何か言葉を口にしようと開くも、唇から音が漏れることなくただ戦慄くのみ。

 唇を噛み締め、嗚咽を堪える。

 ほんの少し、素直になればよかっただけだった。

 失われてしまえば、二度と同じものはかえってこない。

 それは物も命も同じ事。

 だからこそ、人は失うことを恐れる。

 失われる事に涙する。

 物語ならばいつか再び出会うことが出来ると簡単に語られる。

 そんなものは幻想だ。

 今すぐでなければ意味が無い。




 様々な約束をした。


 春の色とりどりに芽吹く季節、

 咲き乱れる桜や路地の花を共に歩き見に行く事


 夏の焼け付くような熱い日差し、

 鮮やかな緑の中を駆け抜け潮騒を聞きに行く事


 秋の鮮やかに色づいた紅葉、

 落ち葉を踏みしめ実りを共に味わう事


 冬の冷たく澄んだ空気の中を舞う雪、

 ぬくもりを分け合い手をつなぐ事


 そして、

 時間と共に色あせてゆく記憶を新しい思い出で上書きしていこう

 そう微笑みあって交わした約束。



 そんな日常ありふれた約束が、果たされることはもう無い。

 約束を果たす機会は永遠に失われた。



 触れていた手を離す。

 そして手に持っていた花を、ようやく棺に入れた。


 ごめんなさい、ありがとう、愛しているわ、愛していたわ……。


 どんな言葉を尽くしても、足りない。

 どんな言葉も、今となっては届かない。

 再び出会うことが出来ないのだから、届いたとしても意味がない。



 さようなら



 静かに眠る顔を、まぶたに焼き付けるかのように凝視する。



 そしてすべてを振り払うかのように、二度と振り返ることなくその場を去った。


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