2014年12月28日

果たされない約束

卑怯者。嘘つき。裏切り者。乱暴者のいい加減者。臆病者。




 罵倒の言葉は、考えれば考えるほど沸いてくる。


 でも一番最後に伝えたかった言葉は……。


 一番返さなければなかった言葉は……もう、渡せない。




 黒い棺の中。

 色とりどりの花に囲まれた青白い顔に、見慣れていた笑みが浮かぶ事はもう無い。

 けれど目を閉じたその顔は、どこか満足そうに笑んでいるようにも見えた。

 頬を伝う感触に、唇が震える。

 何も持っていない手を、横たわる相手の頬にそっと添えた。

 手袋越しに伝わる、熱の失われた感覚。

 もう二度と、何も返すことも、返されることも無い。

 視界が歪む。

 何か言葉を口にしようと開くも、唇から音が漏れることなくただ戦慄くのみ。

 唇を噛み締め、嗚咽を堪える。

 ほんの少し、素直になればよかっただけだった。

 失われてしまえば、二度と同じものはかえってこない。

 それは物も命も同じ事。

 だからこそ、人は失うことを恐れる。

 失われる事に涙する。

 物語ならばいつか再び出会うことが出来ると簡単に語られる。

 そんなものは幻想だ。

 今すぐでなければ意味が無い。




 様々な約束をした。


 春の色とりどりに芽吹く季節、

 咲き乱れる桜や路地の花を共に歩き見に行く事


 夏の焼け付くような熱い日差し、

 鮮やかな緑の中を駆け抜け潮騒を聞きに行く事


 秋の鮮やかに色づいた紅葉、

 落ち葉を踏みしめ実りを共に味わう事


 冬の冷たく澄んだ空気の中を舞う雪、

 ぬくもりを分け合い手をつなぐ事


 そして、

 時間と共に色あせてゆく記憶を新しい思い出で上書きしていこう

 そう微笑みあって交わした約束。



 そんな日常ありふれた約束が、果たされることはもう無い。

 約束を果たす機会は永遠に失われた。



 触れていた手を離す。

 そして手に持っていた花を、ようやく棺に入れた。


 ごめんなさい、ありがとう、愛しているわ、愛していたわ……。


 どんな言葉を尽くしても、足りない。

 どんな言葉も、今となっては届かない。

 再び出会うことが出来ないのだから、届いたとしても意味がない。



 さようなら



 静かに眠る顔を、まぶたに焼き付けるかのように凝視する。



 そしてすべてを振り払うかのように、二度と振り返ることなくその場を去った。


ラグナロク RMT
信長の野望 rmt
PSO2 rmt



Posted by 直澄君 at 21:48│Comments(0)
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